2.「今が真のワイン地帯を作るチャンス」

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 生まれが鹿児島で生来楽天的なせいでしょうか、ピンチこそチャンスと考える性癖があります。日本中の田園地帯にある農村の殆んどが消滅危惧と言われ、中でも北海道の農村はその傾向が著しいと思われています。若年層が減り、高齢者の比率が年を追って高くなっているからです。若い人はもう返って来ないのでしょうか。

 私の考えは違います。私の地元である余市町や仁木町は実際に人口が急速に減少して経済が収縮し、新規の就職口を見付けるのも至難のワザです。基幹産業の果樹生産は私と同世代の人々が必死に守っていますが、後継者難で放棄された農地が目立ちます。

 しかし、よおく考えると、それ故新規にワイン用ぶどうを沢山植える余地があるとも言えます。先人が耕した農地をそのまま放って荒地とせず、新しい将来性のある作物を植えて行く好機と見るべきです。自分の人生の大部分を賭けた作物だからワイン用ぶどうを推す訳ではありません。現在は、この作物には大いなる可能性があるからです。

 私がドイツでぶどう作り、ワイン作りの勉強をして帰って来てから約40年経ちますが、我が国内でのワイン用ぶどう需要の事情が近年大きく様変わりして来ました。きちんとワイン用ぶどうを栽培して、ワインを作ってみようという運動が台頭して来たのです。幸いといっては何ですが、現在の国内の殆んどすべてのワイン会社が、輸入ワインや輸入の濃縮ぶどうジュースに頼ってワインを作っていますし、国産100%といっても食べるぶどうのハネ品で作っているのです。完全に100%ワイン用ぶどうをつぶして、しぼって、という作り方をしているワイナリーは全国に10社あるかないかです。約300軒のうちのですよ。

 いかがですか。ここに大きなチャンスがあるのです。夢ではありません。実現の可能性の話をしています。片やこの国のワイン作りの現状がこうで、そうしてもう一方に過疎に悩む果樹の里があるのです。私でなくとも、この理屈は容易に理解出来るらしく、私の説明を聞いて、すでにこの地に土地を求めた人が、この2年間で5名も来ました。

 「ワイン特区」という制度があり、余市町でもその適用を受けられます。しかし本当にワイン作りをしたい人は決して近付いてはいけない制度です。何故といって、年間2000リットル製造で免許されるのです。720ml入りのビンで2,800本。12,000円で直か売りしたとして、560万円。まともなワインを作るには醸造所、醸造設備だけで数千万円から1億、2億円かかります。(因みに私共の施設はぶどう畑やレストランを含め5億円強かけました。)一体どうやって元を取るのでしょうか。他人にワイン醸造を委託するですって?そんなのワイナリーとは呼べません。何よりも雇用の伴わない事業はワイナリーと呼ぶべきではないでしょうし、そんなワイナリーがこの里に何十軒出来たって、地域の経済は活性化しません。言葉は悪いかも知れませんが、そんな自己中心的な計画を立てたところで、地元の人には、疲弊した田舎に侵入して来た害虫のように思われかねません。外来者は地元に恩返しすべきなのです。それが雇用です。