107.モンタルチーノとモンテ・プルチアーノ

2017/04/15

  パリ在住の高級ワイン輸出商である坂口功一氏。
かつてこの御夫妻に連れられてトスカーナ地方を旅行したことがあります。
地図で見ると、長靴の形をしたイタリアの丁度中程にトスカーナという地域があります。塩野七生(ななみ)さんの「ローマ人の物語」によると、今から二千二百年程前は共和政下のローマが地中海対岸の現在のチュニジアにあったライバル都市国家・カルタゴと都合120年にも及ぶ長い戦争をしていたそうです。仲々決着の付かなかった例の「ポエニ戦役」です。
敵の勇将ハンニバルが象の軍団でイタリア半島を蹂躙したり、当方にはスキピオという英雄が出現したりで、古代ローマ史が好きな人にとっては何度読み返しても決して飽きない箇処です。
  さて、紀元前146年に最終的にローマが勝ち、相手の国をすべて破壊してしまいます。結果、地中海全域の覇権をローマが握りますが、その前の紀元前241年には間に横たわるシチリア島がカルタゴ領からローマ領となります。塩野さんはそこでサラッと数行書き加えます。小麦の生産量が豊富なシチリア島がローマに帰属したため、それ迄ローマへの小麦供給基地だったトスカーナ(ローマの奥座敷的地区でその頃の名はエトルリア)が耕作物の転換を余儀なくされたそうです。現在のイタリア・ワイン銘醸地の誕生という訳です。
  ローマ・フィレンツェ間の国道を走ると、右に左に孤立した小高い丘が幾つもあり、天頂部は城壁で囲まれています。城壁の外はぶどう畑で覆われている、程良く小振りな城塞都市をふたつ訪れました。モンテ・プルチアーノとモンタルチーノ。どちらもワイン作りで名の知れた町です。城壁の中は石畳で道路も狭いため、城外に駐車して街中はゆっくり歩きます。丸でタイム・スリップした感じで、どれでも良いからと、レストランに入ると、城壁ギリギリの崖っぷちに席があったりして最高の気分に浸れます。勿論ワインも美味至極。
  余人は知らずとも、ワイン作りの世界で人生の殆んどを費やして来た立場から申しますと、このように古代の趣きとワインの香り漂う空間を終いの棲み家としてみたいという誘惑には仲々勝てません。ヒマを見て何度も訪れることになりそうです。