11.「ナパ紀行Ⅰ」

2015/06/19

 大して金持ちでもなく(それどころか、どちらかという貧乏人で)、それゆえ自由時間を沢山持っているせいでしょうか、よく海外に旅をします。殆んどすべてワインが目的です。ナパはこの40年で8度目。大体4~5泊。しかも同一のホテルに連泊という形をとります。ゆったり楽しむためです。
 確かに気に入って、何度も訪れるワインの町はあります。ボーヌ、ボルドー、ランス、マドリード、ログローニョ、バルセロナ、ローマ、フィレンツェ、ウィーン、パリ、それにかつての同級生の住むドイツの町々。それらすべてに愛着を持っていて、本当に何度も何度も訪れます。
 しかしナパを訪れる真の目的、喜びは、他の町とはかなり異なります。それぞれのワイナリーの庭の中でゆったり試飲すること。それと、ここが一番大事と思っているのですが、前回とどこが変わったかを見ること。
 年々発展しているワインの町なんて他にありません。リノヴェイション(改革)発見の旅と言ってもよい程、毎度あちこちが生まれ変わり、しかも新しいワイナリーが出来ています。何故、ここの当主はここをこう変えたのか。新しいレイアウトでお客の側の受ける印象はどう変わるのか。まさに現代ワイナリー経営の学習の場なのです。
 「庭作りに力を入れよ」はここで学びました。ホスピタリティー溢れる対応も、自分の手の内を相手に全部見せようという姿勢もナパの人々から多く教えられました。
 反面、気候は特殊で殆んど参考にはなりません。とにかく一年中、夜温が低いのです。夏来ても、勿論冬泊まっても、夜は暖炉に火を入れます。この点は北海道に近いかな、というところ。植わっている品種はブルゴーニュとボルドーのものすべて。プラス、出自の定かならぬジンファンデル。今年は気候が早く廻っているので、ピノ・ノワールは7月下旬の収穫かな、とシャンペン蔵Mummの案内人が言っていました。それでいて、少し遅くにはカベルネの一族がきちんと成熟する不思議な気候帯のワイン産地です。だってひとつの町でピノ族とカベルネ族両方の逸品が楽しめるなんて、世界中そうざらにはありません。
 味の方向性も、よりタンニン質を多く、よりドライに、そしてよりビン熟成をかけてと加速しています。新樽熟成に力を注ぎ、各自「ワイン・クラブ」で顧客を組織して、ワイナリーの高級化を目指しています。全米16,000軒の頂点に立つ4~500軒をナパは自認していて、それ故価格もうなぎ昇りです。その利益が再投資に向けられているようです。何度訪ねても飽きない、常に又訪れたくなる町です。