142.ロワールよりのお客様

2018/09/10

  無理なく極くまともなワイン作りをしていると、まことに面白いお客様が次々と我がワイナリーを訪ねていらっしゃいます。最近、フランスはロアール河中流域シノンのワイナリーを経営するカップルがやって参りました。夫君は50歳のフランス人、その伴侶は36歳の日本女性という取り合わせです。何でもこのフランス男性は弟夫婦と一緒に30haものぶどう畑プラスワイン醸造蔵を経営しているとか。殆んどすべてがカベルネ・フランからの赤ワインで、一番安価な並みワインが5.50ユーロ(約700円)、中級を適当に徹りばめ、上級ワインは13.50ユーロ(約1700円)とのこと。平均年産20万本だそうで、年商は2億円前後かなと推察しました。
  ワイン作りを稼業とするお客が訪ね来た時、その人には自分のワインを御馳走するのがこの世界の慣わしですから、私も当OcciGabi Winery人気のワインを幾つもグラスに注ぎました。勿論相手の言葉にお世辞は多少混じっていても、その飲みっ振りやらお替りを要求する仕草から、本当に気に入って貰っているのを実感しました。「ところで、このAcolonという貴方のワインは一本いくらですか」との彼の問いに、さり気なく私が「約65.00ユーロ(8640円)です。」そこで相手は絶句。
  洋の東西を問わず、1本5~6000円以上のワインは「超高級」に属するからです。それにしてもこのフランス人のロアール地方のワイン蔵は1930年創業とのことですから、彼できっと4代目でしょうか。すぐ南部にある世界に名立たる銘醸地ボルドーを意識して、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、プチ・ヴェルドー、マルベックそしてカベルネ・フランと5品種の混合を行わず、カベルネ・フラン単品種でブランドを確立して来た地帯の当主にしてみますと、名も知らぬ「アコロン」のようなワインに価格で水を空けられるのは不本意なのでしょう。その後もずっとこのアコロンの味利きをしていました。
  実はこのアコロン、20世紀最晩年にドイツが満を持して発表した新品種なのです。しかも彼が口にして美味に感じたこのワインはヴィンテージが何と2017。仕込んでからまだ10ヵ月の若いワインだったのですから。
  ワインを作っている者同志が虚心坦懐に向き合うと、時々こんなことが起きるのですから痛快です。