43.高付加価値型ワインの登場

2015/08/09

 かつて、まだワイン作りがヨーロッパを中心に行われていた頃の話。即ち20世紀中程の大戦までのこと。ぶどう作り、ワイン作りの世界は「一子相伝」の傾向が強く、後継ぎ息子は父や祖父に教えられるままに、ご先祖様とは余り変わらない方法で作っていました。
 それが平和の時代が訪れ、戦後の世代がこぞって高等教育を受けるようになってから、ワイン作りの現場は大きく様変わりします。ステンレスを素材にした新型の醸造機器の登場やフランス、イタリア、ドイツ、アメリカ合衆国、オーストラリア等にある公立のワイン教育専門機関での教育が後押しして、理論を備えて向上心のある人々が続々とワイナリーの現場に登場したのです。
 移動手段や通信手段の目覚ましい発達も無関係ではなく、更には受け手のお客様も豊富な知識を駆使してワインを論評するようになりました。結果、伝統的なワイナリー、新設のワイナリーを問わず自己の製品を高級化する大きなうねりが現れました。
 良く言われることですが、アメリカ合衆国の「大躍進期」(1980年-2010年)には、ボルドー・グランクリュ式の新樽熟成が盛んとなり、かの220~225ℓの新しい樽を積み上げての製法が一般化しました。要は、高価な機器・設備を導入し、新樽熟成という手間暇かけてのワイン作りをするのが常識化したのです。勿論同時に醸造棟の周囲に静かな庭を配置し、畑も美化しました。「良いワインは良き畑から」の言葉通りに。名付けて「ワイン革命」もしくは「ステンレス革命」の到来です。
 この「ワイン革命」の動きは、もし皆さんがご自身をその中心に居ると想定して頂ければ、納得が行くことでしょう。例えばご自身が老舗ワイナリーの第何十何代目の後継ぎ当主であったとします。又は創業の当主だとしたら、と。「自分の人生は自分でクリエイトする」という気概でワイナリーの経営に臨むのであれば、当然の帰結としてこの現代の運動がある訳です。
 私の愛読エッセイストで、ANA機内誌「翼の王国」の第19頁に連載コラムを持つイタリア人ジャコモ・モヨーリの主張が思い起されます。(確か彼はミラノ工科大でデザインを教えている先生。)2013年12月号だったと思います。曰く、ワインの高付加価値化に於いて大切なのは味そのものではなく(勿論逆説的皮肉です)、ワイナリー運営の理念や建物、ロケーションであると。至言といえましょう。