57.アルゼンチンのこと

2015/12/09

 11月25日深夜の経済ニュースに、新しく就任するアルゼンチンの大統領が出ていました。知的で誠実な雰囲気の人でしたが、「私はこの国を(経済的に)強い国にする」と語っていました。
 思えば私が東京の大学に入ったその年(1966年)に、口蹄疫という牛独特の病気ゆえに、アルゼンチンから日本への食肉の輸入が禁止され、今日に至っています。牛肉はこの国の重要な輸出産品でしたから、自国の経済に与えた影響は甚大だったことでしょう。おもしろいことに、きっとこの事件以前に輸入された肉から作られていたであろうプレスハムが、日本ではその日から捨て値で売られ始めました。ヘソ曲がりを自認する私のことですから、何日も何日もスーパーでプレスハムを買い続け、信じられない程沢山食べたのを覚えています。
 そして2001年、この国はデフォルト(国際債務不履行宣言)をしてしまいます。ここから先が、今日の主題です。
 デフォルトをかけるとその国の通貨は対外的に紙屑化します。食肉事件以後、1970年代80年代と徐々に力をつけて、外貨稼ぎの主力選手となっていたワインの価格が大暴落するのです。喜んだのは先進諸国のグレイ・ワイン・マーケットです。ヨーロッパの或るワイン大国は、アルゼンチンものをビンに詰めないで輸入し、自国でビンに詰めラベルも自国のものを貼って第3国に輸出したと聞きます。勿論、まともな表示法(原産地呼称制度)のない我が日本では、堂々とそんなワインが「国産」「自社製」として国内で流通するに至ったのです。マンマ・ミーア!
 日本の「国産ワイン」の7~8割がアルゼンチン産だと言われる所以です。悲しくなりませんか、皆さん。かつて2~3年前にNHKラジオの「地球ラジオ」という番組で、或る人が「私は20年以上アルゼンチンに住んでいる日本人です。先日20年振りに日本に帰りましたら、店頭には、アルゼンチン・ワインが殆んど見当たりませんでした。皆さん、こんなにおいしいアルゼンチン・ワインをもっと飲みましょう」と発言していました。私は大いに苦笑しました。だって、日本人の飲んでいるワインの30%がアルゼンチンのものなのですから。(日本国内での全消費量の60%が「純正の」輸入ワイン。残り40%のうち7~8割がアルゼンチンものだとすると、計算上総量の約30%ということになります。)
 新しい大統領はとても能力のある人のように見えました。本当に申し訳ない。今度は自国でビンに詰めて、堂々と高い価格で日本に輸出して儲けて下さい。本当に美味しいのですから。