58.余市こそ真のワイン地帯となる

2015/12/10

 先日(11/30)余市町でワインに関する講演会がありました。東京から来た2人の講師が色々な観点から持論を展開しました。会場に3時間居続けて聴きながら、自分の胸に去来した思いを幾つか述べてみます。
 <余市には30数年来ケルナーというドイツ由来の白ワイン品種があるのだから、余市にしか出せない独特のケルナーを出し続けて欲しい>。或る講師がこの点を強調しました。しかしこれは完全な間違い。今から38年前の1977年、ドイツ留学の帰途私自身が持ち帰り、北海道中央農試の尽力もあって大いに広まった品種とはいえ、いまだにこの品種に固執する理由が私には全く理解出来ない。かつてワイン事始めの時期ならいざ知らず、唯、単に栽培が易しくて、収穫量が安定して多いというだけで作り続けられているのが実情。本国ドイツではとうに忘れられた品種となりつつあるのは、その強すぎる果実香のため。新樽熟成には不適で、ワインも食中酒というよりはデザートワイン的。上陸地北海道で続けて少量作られることに多少意味はあっても、主力は素直にシャルドネにすべきと考えています。現に1998年以降の温暖化により、この地では平常にピノ族(ノワール、ブラン、グリ、ムニエ、シャルドネ等)の栽培が出来るのですから。栽培者から誰一人醸造者が出現しなかったことに由来する奇異な現象かも知れません。もっとも私自身は、シャルドネに重心は置きつつも、ゲヴュルツ・トラミーナやムスカテラー、ピノ・グリ等々この地での新品種も少量ずつ栽培して行くつもりです。
 <これから日本ワインを牽引していくのは信州と北海道>。もう一人の講演者のこの意見にも私は異論を唱えます。ちょうど一年前の2014年12月、長野県東御市に玉村豊男氏を訪ね、会談してみて分ったことですが、先ずは得られる畑の面積が長野では極端に小さいのです。ここ余市では手に入る農地が5~10ha単位なのに、彼の地では0.3~0.5haで1/10~1/20の広さなのです。更に単位面積当たりの農地の価格が、当余市は200円~300円/㎡なのに対して彼の地は優にその10倍~20倍。要するに同じ額のお金で、長野に比べて余市では10倍~20倍の面積がしかも“必ず”、“まとまって”買えるということです。
一般に標高100mの上昇につき平均気温が1℃下がりますから、余市の10~100mの地の方が長野の800mの地より温暖であること。更に余市は周囲が低い丘ですから日照時間が長野より長いということ。私もかつて3年間(1988-1991)長野の標高750mの地でワインぶどう作りをしましたから、このことはハッキリ分かります。
 余市では厳寒期の1月2月に1m前後の積雪があり、ぶどうの木は雪の下で休むため、雪の余りない長野の高標高地のように「眠り病」(凍結による冬芽の障害)がまったく起こらないこと。雪の下に枝(ツル)を寝かせる栽培方法も、この地では確立されています。
 来たれ余市に、真に自分のワイナリーを開きたい人は。