67.本のこと

2016/03/19

 男もすなる日記というものを・・・と気取りながら、作家志望で書き始めることも出来ないまま何十年も経ちました。なんて考えている日本人の中老年は非常に多いと推察されますが、逆にそういった層が自分は書けない分、面白く書かれた他人のものを読もうとするのですから、本当にこの世は面白いと思います。料理もそうです。私はいい齢の男としては異常なほど料理好きで、毎度一生懸命作るのですが、家人を喜ばす前に自分で先ず食べて、あっ又60点以下、となるからこそ、より美味しいものを求めて外に出て、やっぱりプロにはかなわないなと納得するのです。
 読み方の作法に於いては、量は読むし時間も相応にかけます。読書の対象もかなり広く、本屋での立ち読みも脚が痛くなるまで書棚を巡り読み歩くのです。札幌駅横の紀伊國屋なぞ出来たら健常者でも専用の車椅子持ち込みを許して欲しい程です。勿論、立ち読みの心得はきちんと果たしています。必ず2冊買って帰ること、です。
先日、私共のワイナリーに面白い人が訪ねて来ました。実名を明かして申し訳ないのですが、良い話なので書きます。Shoshanah Kaufman(ショシャーナ・カウフマン)、20代のとても美しい女性でした。札幌でマイクロ・ブルワリーをお父さんと経営しているとかで、かつて私も新潟のワイナリー経営時代に小さなビール工場を持っていたと、これも東京から来ていた彼女(略称ショーナ)のフィアンセ氏と3人で楽しく語らいました。初対面の女性にはとても恥ずかしくて言えませんでしたが、彼女の名前から私はとっさに「足長が小父さん」のジルーシャ・アボットを連想しました。「お父さんの名前は?」「フレッド。」「FREDですか?」「いや、ちょっと格好付けてPHREDよ。」ここから先は私の胸の中。フレッド→フレドリカ、これは私の大好きなハインラインの「夏への扉」の女主人公の名。ショーナはポーランド系の(名前はドイツ系の)アメリカ人とのことですが、ジルーシャとフレドリカの二人の女性主人公の名前が交錯して、とても心楽しくなりました。でもこのオジさん意外と少女趣味なんだね、イヤラしい。と思われるのが嫌でこの胸中は二人の若いカップルの前では述べず仕舞いでした。
50年前大学の英米科の授業では或る教授が「ジェーン・エア」と「嵐が丘」を教え、もう一人の教授はアラン・シリトーやアップダイクを教え、第2外国語のフランス語講師はカミュを取りあげてといった具合いで、それらすべてが自分にとっては面白い小説でしたので、無理なく男性主人公と等分に女性主人公の世界にも浸ること出来ました。勿論、「若草物語」も「アンナ・カレーニナ」「第二の性」「女の一生」も翻訳ながら愛読しました。直近では湊かなえの短編集にもちょっぴり酔い痴れました。
「週刊文春」最新号(3/10号)の福岡ハカセのエッセーには本の束(つか)のことが書かれていて、成る程と思いました。紙の本には電子書籍には無い束(つか)というものがあって、これは本の厚みのことだけれど、読んでいて指や手の感覚で今、全体のどの辺に居るのかが分り、この感覚は得難いものという話。常日頃、自分で理由がよく分らないまま電子書籍を敬遠していたのが、やっと納得出来た次第です。