72.人類最初のワイン作り ②アンフォーラのこと

2016/05/01

 かつて20年以上新潟に暮らした時、大好きなイタリアンレストランがありました。その名も「アンフォーラ」。世界中、大昔の沈没船を引き揚げて財宝を手に入れようという輩が居て、特に地中海には多いそうです。そんな時、船の中には無数の素焼きの甕(かめ)が発見され、多くは空っぽなのですが、その形状がとても面白いのです。底が尖っていて、床に置くのには適しておらず、我が縄文・弥生土器とは利用法が大いに異なります。時には地面に突き刺して、又或る時は地面に首まで埋めて利用するための形状で、ワイン作りを知っている人ならすぐに辿り着く発想でしょうが、要は地面の冷たい温度を取り込むためのものです。一種の冷蔵保存法で、ですから中に入れる物はワインとは限りません。小麦やハチミツも入れますし、金貨だって冷やした方が良いのかも知れません・
 さて、このアンフォーラという素焼きの先尖り甕、地中海地方を旅すると、超ミニサイズのものは土産物店によく並んでいます。しかし文献を当たると、ワイン用は70~数百リットルらしいのですが、勿論現代ではもう使用されていません。と思っていたら、先月来訪した人類ワイン作りの始祖ジョージアのワイン製造現場ではいまだに使われているのだそうです。彼らが記念にと私にプレゼントとして呉れた220頁の写真集(英文)を開いていて、しばし心地よき思いをしました。こうなったら味はもうどうでもよろしい。タイムトラベルをしましょうという想いで写真集に見入りました。
 更に偶然は続きます。ジョージアの人々来訪3ヶ月後の先月、伊藤忠商事関連の食品会社の人が我がOcciGabi Wineryに訪ねていらっしゃいました。この人はかつてモスクワに駐在していてジョージアワインの現場にも詳しく、「落さん、その写真集をよおく読んで下さい。彼らは貴方に現在もこんな方法でつくっていますと言いましたね。」「ええ。」「それは嘘じゃない。でもそれは国が指定した幾つかの歴史的製造法のワイナリーだけのことで、実際は、99%は近代的な貴方のセラーと同様の設備で作られているのですよ。」
 実は、私もそのように想像していました。だってスマホやPCで情報が飛び交っている現在です。「始祖」が古代人のまま居る訳がないのは当然で、それどころか、かつてシュワルナゼ大統領(ゴルバチョフ氏の盟友で外相だった人物)が策した如く、ジョージアが今や再び真のワイン大国にならんと欲しているのは明白なのですから。