79.愉快なフランス人の来訪②

2016/06/17

  きっと世界中の色々なワイナリーを訪ね歩いていることでしょうから、この訪ね来たフランス人の樽屋さんも私と似たような「ワイン作り哲学」を持っているものと思われます。
他の誰とも異なる原料の新鮮なぶどうを、他の誰とも異なるワインに作り上げる。ワイン作りはこの一言に尽きます。
  とても面白いのは、地球上に何十万軒ワイナリーがあろうが、その最初のセクションである「ぶどう受け入れ機構」のシステムでさえすべてのワイナリーで違うのです。醸造を担当する当主(若しくは雇われた醸造責任者)の主義主張が微妙にそれぞれ違うこともありましょうし、彼等が建物の設計にも大いに口を挟むことに由来するのでしょう。収穫・搬入されたワインぶどうを選果したり、ヘタを取り除いて粒を潰したり、その潰したものを搾(しぼ)ったりする時、それぞれの機械の選定や配置、そして仕事の手順まで、大げさではなく、一軒一軒全く違います。そして次の行程のステンレスタンク群の形状も違えば、小さな熟成用新樽の配置も異なりますから、ワイナリーを訪ねる人々は、そのワイナリーの大小に関係なく、当主の案内でワイナリー内を細かく見学したがるものです。
  色々な疑問を持ち、鋭い質問を発する被案内者(つまりお客様)を、醸造所を取り囲む庭園、更にその外側の大きなぶどう畑、そして醸造空間(セラー)の順にご案内して、最後に試飲カウンターまで導くことこそ、ワイナリーの経営者にとっては最高の歓びです。ですから、極く自然に自己のワイン作りを誇張なくお話することとなり、尋かれたことは隠し事せず何でも喋ってしまうのです。 
  さて、そんな塩梅で、かのフランス人をビン熟成庫まで案内して来た時のことです。私共のビン熟成庫には2013年もの2種類、2014年もの4種類、2015年もの9種類が500本収容の金カゴで保存されているのですが、ラベルはそれぞれ当座の分(各200本程度)しか貼ってありません。フランスの人がそれを見咎めて、「どうして全部ラベルを貼らないのですか。」「余り早く貼っておくとラベルが汚れたり、破れたりするからです」と私。そこで、こちらの予想通りの彼の意見。「何と勿体無い。痛んだラベル程美味しいワインと感じられるのに。」わざとホコリ晒しにして、ワインの古さを前面に出す彼の国と、いつもきれいなラベルをよしとする我が国の違いでしょうか。でも本当にワイン作りをする人が日本でも多くなった暁には、ちょっと古いビンこそ珍重される日が来るのでしょうか。