85.国産ワインの原料は8割が外国産

2016/08/12

  かつて「週刊新潮」2008年10月3日号に載った、ノンフィクション・ライター河合香織氏のレポートが手許にあります。氏は2005年の国税庁公表のデータをベースに論評を進めていますが、何と「国産ワイン」の名の下に売られているワインの80%弱がアルゼンチンやブルガリアから輸入されたワインそのものか、又は同国から濃縮果汁で輸入された液体を日本国内において水で希釈して発酵させたワインである、と。
  読んだ私は、その当時全く驚きませんでした。ワイン製造の現場ではすべての人が知っている「常識」だったからです。それ故丁度その頃、新潟でカーブドッチというワイナリーを建ち上げていたのですから。国内では画期的なことながら、「すべて生の国内産ヴィニフェラで作る、日本唯一のワイナリー」を標榜していたのです。Vitis viniferaといって、ワインを作るためだけに存在するヨーロッパ原産のぶどうのグループのことで、これには、甲州ぶどうも、マスカット・ベイリーAも、セイベル系フレンチ・ハイブリットもヤマ・ソーヴィニョンもアルモ・ノワールも入りません。作ってみれば分かります。きちんとした味のワインを作るには純粋ヴィニフェラもしくはヴィニフェラ×ヴィニフェラの交配品種しか使えないからです。
  飲んでみれば分かります。昨年末までの「甲州ぶどうからのワイン」にはシャルドネを混入出来ましたので、まだ飲めましたが、もし今後「新ワイン法」ゆえ甲州ブドウ100%で作ったら、どうなることでしょう。要するに作り手の側に心の葛藤があったのでしょう。純粋に甲州ぶどうだけで作ると味がとても薄いから、何とか濃くしたい。シャルドネを大量に混ぜれば、味は濃くなるし、コストも(輸入品で信じられない程安いから)低く抑えられる。よくテレビの映像で甲州ぶどうをイジメにイジメて濃い味わいにしているという女性が出てきますが、私の当然の疑問として、「どうして、じゃあ、シャルドネそのものを栽培しないのだろう」、となります。
  要するに残りの20%が国内産ぶどうから作られているとはいえ、食べるぶどう等ワイン作りに適していないぶどうから作られているのが現状です。結果ワイン専用のヴィニエラからのワインは1%弱という計算になります。ぶどうを作る気もない人々がワインを作りたがる、このおかしな風潮は、しかし、日本の伝統的なお酒である日本酒作りにルーツがあります。国内の日本酒メーカーで、米作りに精を出しているのは僅か数社というのが実態なのですから。
39年前にドイツでワイン作り教育を受けて帰国し、ずっと「先ずはきちんとヴィニフェラを栽培しましょう」と主張し続けてきた私です。先日、有意の青年が私を訪ねて来た席で、丁度私もヒマでしたから、これらの話を彼にしますと、彼曰く、「よく、国内のこの業界がイヤになりませんでしたねえ。」
  国(国税庁)も新法を施行したからには、大変な責務を負うこととなったようです。決して抜け駆け(要するに新手のインチキ製法)を許さないための監査が必要で、皮肉なことに、その監査・監督の方法もフランスやドイツから学ぶこととなりそうです。非常に少ないとはいえ、インチキの手法に於いても彼の地が先進国だからです。痛快至極と言うべきでしょうか。