87.ワイン維新

2016/09/23

  今から150年前に我が国の社会制度が180度変わりました。明治維新です。日本人なら誰でもよく知っている事件とはいえ、よく考えると、その変革が余りにも完璧過ぎて、現代に住む私達には全く実感が湧いて来ないのも事実です。70年前の昭和の大戦争の前と後もそうですが、近世以降に於いては様変わりの仕方がきちんとした折り目のように起きています。もし自分が明治維新を経験したとしたら、きっとそれを題材に文章を延々と書き綴ったことでしょう。
その時、私が一般町民だったとして、急に自分が苗字を名乗るようになったり、刀を差した偉そうな人々がこの世から居なくなったり、誰もが髪型を簡素なものにしたり、近くの大きな町に行けば青い眼で金髪の人に出逢うし、つい先頃までは一度も見たことがなかった洋服や靴を見てとてもビックリしたことでしょう。東京、川崎、横浜や小樽、札幌、岩見沢の辺りに住んでいた人々は、いち早く蒸気機関車を見たり、乗せて貰ったりしたことでしょう。レイ・ブラッドベリ描くSF小説では、火を吐き汽笛を鳴らして走るこのロコモティブを遠くから見た原住民が、それを龍だと錯覚する下りがありますが、とにかく、当時の日本の人々も目の廻るような10年20年をすごしたハズです。
  以上諸々の変革に比して内容的には、そして結果のもたらす重大さに於いては、決して優るとも劣らない大変革が今まさに日本のワインの世界で起きています。私はそれをワイン維新と名付けようと思います。
  目の前にあるビンの中。そのワインは一体何処で栽培された何というぶどうから作られているのか。こんな簡単なことが、我が国では今迄一切表示されていませんでした。正直に表示する義務が無かったとも言えます。欧米先進国では決して有り得ない話ですが、我が国日本では今迄ずっとそうだったのです。
  ああそう。じゃあ、これから日本でも欧米並みに色々表示するのね。良かったわね。いえいえ、物事はそう単純ではありません。何はと言って、もし日本中のワインメーカー(ワイナリー?)が新しい法律に従ったとしたら、とんでもない事態に陥るからです。
  皆さんは「国産ワイン」の定義をご存知ですか。きっと国産のぶどうで作られたワインだとお思いでしょう。さにあらず。実は「国産ワイン」の殆んどすべてが、外国で作られたワインそのものか、もしくは外国で濃縮果汁にされたものを輸入して、それに水や砂糖・香料を加えて日本でワイン化されたものだったのです。要は日本国内でビン詰めされればそれでよしの世界。今回の表示法でこの手垢にまみれた「国産ワイン」という呼称そのものが消えました。これからは「日本ワイン」で行きましょう、ということになったのです。一応、食べるぶどうでも何でもよいから国内産のぶどうからから作られたものだけが「日本ワイン」となります。国内市場での日本ワインの顔振れは全く変わることとなるのです。