88.これからの日本ワインは

2016/09/25

  ワイン作りの現場で40年以上生きて来た、私のような立場の人間が考えることですが、果たして純粋に食べるぶどうだけから作られたワインは現代の消費者(ワイン愛好家)に受け入れられるでしょうか。
  結論から言うと、それは無理です。田舎の町の食べるぶどうの選果残りから作られていると称したワインにも、外国産の果汁・ワインが混入されていたからです。それ程純粋な食べるぶどう100%のワインはマズイのです。生き残る道は地道にワイン用ぶどうの畑を作ることから始めなければならなくなったという次第です。しかし、更に考えると面白い論理に行き着きます。今迄ワイン用ぶどうを作っていなかったワイナリーの経営者達に、きちんと最初から十分な大きさの畑を作ろうという意志が湧くでしょうか。今迄の販売実績を1/10~1/20まで落として畑作りというのなら分りますが、それは会社という組織の継続性を考えると不可能です。何よりも原料ぶどうのことをこれ程軽視していた人々が、急にぶどう栽培家になれるでしょうか。
  輸入原料ワインや濃縮果汁は例えば麻薬のようなものです。手軽にハイな心持ちとなり、いかにもその世界(ワイナリーの経営というバラ色の世界)の住人となれます。しかしその結末が恐ろしく、仲々元の世界(きちんとワイン用ぶどうを栽培する道)には戻れない。しかも、ここが一番重要ですが、「麻薬性」を持ちながら合法で、価格も信じられない程に安いのです。この2点が本物の麻薬とは違います。この手法を広めたのは北海道の或る町の町長さんと東京の輸入商社だということは業界ではよく知られています。しかもその町がかつての「地方創成」運動であった「村おこしブーム」の仕掛け人とまで騒がれたものですから、この外国ワインを自分のビンに入れて知らんぷりの麻薬的ワイン作りは、全国津々浦々に広がって今日に至りました。恐るべきかな。そして祭のあとは見ての通り、という次第です。
  笑えない話ですが、今回の新法施行を知らずに、輸入ワイン系のワイナリーを着々と計画していた連中は大慌てです。(街の真ん中にワイナリーを開いている人々がそうです。)
  それでも、このような大変革を推し進める人々も大変だと感じ入ります。矢張り、国は徐々に、そして段階的にこの大業を成し遂げようとしています。先ずは最上流のメーカー(ワイナリー?)側の指導と法整備、次に流通その中でも大卸しの酒問屋さん達への説明会。市中の酒の小売屋さんや一般消費者への説明・周知は、まだ殆んどなされていないと言っても過言ではありません。その任に当たるべきマスコミがこの新しい法律の本質を理解していないからです。いえ、例え理解していても、広告主たる怪し気なメーカーに遠慮して、真実を書けないからです。困ったものです。