94.妻Gabiの小言Ⅰ

2017/01/22

  奥さんのことをよく家人といいますが、我が家人Gabiの場合、生まれも育ちも、そして今迄生きて来た人生までもが、私とは丸きり異なります。一方私と似て、物事をかなりハッキリ言う方なので、この数年彼女の指摘によって自分の実像をより知るようになってきました。  
  身に着ける物には全くといってよい程頓着しない私です。私なりにその理由・原因は解明済みで、要は幼い時からディオゲネス的なのです。例のボロをまとって樽ひとつの中で暮らした古代ギリシャの哲人のことです。それは生涯温帯と亜寒帯だけに暮らした身ですので、私は半裸の生活はしませんでしたが、それでもエンゲル係数(これは今の日本では死語かな)の高い、食費以外に余りお金のかけられない貧しい家庭(かつてはこれが一般的でした)で育ちました。
  更に中学校では柔道、高校からはつい最近までサッカー一筋の人生でした。物資不足で練習着もユニフォームも何年か着古しでプレーするのをよしとする時代でしたから、逆に外見だけの華美さを極端に軽蔑するようになりました。そして人生の職業として選んだのがぶどう作りとワイン作りですから、別にわざとではなく、いつもplain living(生活と身なりは質素)だったのです。我ながら精神衛生上、類まれな良き環境で生きて来たことになります。
  そんな人間ですから、シャツも靴も靴下も決して捨てようとはしない。ローテーションを組んで同じものを洗濯しながら何十年も身に着けようとします。昔、1974年に西ドイツの学校で買ったゴム長靴など、物も良かったのでしょうが、2013年に靴底が完全に剥がれるまで40年も履いていました。
  妻のGabiが当初(2、3年前)よく小言を言った対象は親指の先に穴の空いた靴下のこと。5本指型木綿製(中国製)が大好きな私の靴下は、必ず2ヶ月程で右の親指の下に穴が空くのですが、平気でそんなのを履いていて、よく叱られました。「他人様の家に上がる時みっともない」と。でも実は、私自身にとって穴が空いてからが勝負なのです。親指の下に穴が空くのは、きっと柔道やサッカー由来のピボット(軸回転)のせいなのでしょうが、穴が空いていると余計親指の下腹が靴底に密着して、接地性が良くなります。
  こんな屁理屈を言っても快く同意してくれない妻に、Donovanの歌を教えました。
I love my shoes,
I love my shoes.
My shoes are so comfortably lovely.
と続くあの句です。古ければ古い程愛着が湧く、というこの歌は確か私が大学1年生の時(The Beatles全盛の頃)イギリスで流行りました。
 親指の先に穴が空き易い。それは意外と中国メーカーの策略だったりして。そしてその策略は私にとって逆効果だったりして。兎に角、妻のGabiは私を理解してか、諦めてか、私がちょっぴり痛んだ物を長く大事に使うのを許してくれるようになりました。靴下、靴、シャツ(特にTシャツ)…と何番までありましたっけ、Donovanの歌の如くにです。