123.取りやめる勇気

2017/11/09

  かつて私が新潟市の南郊でワイナリーを営んでいた時のこと。初秋の或る日曜日には、近くを通る海岸沿いの風光明媚な国道を昼頃3時間余にわたって封鎖し、トライアスロン・レースを開催していました。主催は合併される前の巻町という自治体で、町役場の職員やら町内会の人々が運営に当たります。
  海峡を挟んで40km向うの佐渡では、その少し前後の時期に世界的に有名なトライアスロン・レースが行われ、世界中から有力な選手とその支援者達が島を訪れて埋め尽くし、まさに沸騰した数日間となります。「佐渡に2大イベントあり、それは鼓童(こどう)の演奏とトライアスロン」と言われ、知っている方も多いと思われます。
  しかし、それを横目で見ながら手軽に真似して始めた対岸の我が町側のトライアスロンは、遊び半分の家族レースムードが祟ってか、年を追う毎に参加者数は枯れて来ました。すると怪しげな人物が出て来て、身障者トライアスロンに切り替えようと言う始末。これを機に代替え道路のない国道を閉鎖して行うことへは沿線事業者達からの反対論も出て来ました。運営側でも、町役場の職員は出勤扱いで有給なのに、町内会の人々は完全無給のボランティア扱いで互いに揉め始めます。結果、丸切り違った理由から中止となりました。その時そのコース延長上の海岸線に原発を予定していた東北電力が、我が国で初の住民投票による否決を受けて、賞品・飲み物等々諸々の支援スポンサーを降りてしまったからです。
  その地域で世にも珍しいワイナリーCaved’occiを経営していて、常に一風変わったコメントをする私の処に早速新聞社が取材に来ました。「どう思いますか?」と。私の答は明解です。「世に第〇回と回を重ねること自体に目的を置いているようなイベントは、物事を深く考えない人々の所産です。取りやめる勇気こそ必要です。」
  子供もまばらなのに、軽四輪トラックに御輿を載せてはしゃいでいる大人達の顔を見ていると、集めた寄付で飲み食いする会のことばかり考えているように見えます。又、我が余市で2月に行われる余り行儀の良くない「ワイン飲み放題祭り」も、ワイン作りに関わっている私としてはやめて欲しい。「ワイン地帯余市の品位を下げる会」みたいですので。それにしても、ワイン新法施行年の2018年も行うのでしょうか。出品協賛会社の大半が新しい法律に触れているのですが…。