148.TPPとEPA始動

2019/01/14

  かの偏狭なるトランプ大統領がいかに自国第一主義を掲げようと、通商・通信・金融等々に於けるグローバルな流れを押し留めることは不可能です。その証拠に彼の国の一番の友好国たる我が国でさえ、安全保障面では(軍事的には)合衆国に敬意を払いつつも、他の分野特に通商では、より広域な通商協約作りに陰ながら主導的役割を果しています。環太平洋のTPPしかり、対EUのEPAしかりで、TPPの発効は昨2018年末の12月30日、EPAは2019年2月1日と目前です。
  今回の協約は即時もしくは段階的に短時日のうちにお互いの輸入関税を無くそうという運動です。我が国の場合、工業加工貿易立国の宿命でしょうか、輸入に関しては農産物及び農産加工品が大きなターゲットとなります。池上さんのニュース解説でも他の諸々の論評でも、話題として分かり易いのか、それとも国内農業者への影響が一番少ない分野だからでしょうか、ワインを例に取り上げることが多いようです。
  ではワインを軸にこれら協定の今後の流れを考えてみましょう。そもそも相互通商協約を結ぶ場合、その貿易対象産品の定義から始めなければなりません。ワインとは何か。日本のワインとはどんな物か。相手国ではそれをどう定義付けているか。
  面白いことに、我が国には今迄ワインに関してはまともな定義がありませんでした。大きな概念として、果汁を発酵させたもの程度の思いは国民にありました。しかし諸相手国では丸で違った規定の農産加工品だったのです。ワインとは或る地域で栽培・収穫された、何という種類のぶどうから、どのような製法で作られた、一般に長期ビン内熟成に耐え得る産品、といった具合にこまごまとした規則で縛られたお酒なのです。
  ルール無しの日本でのワイン作りは、その定義の曖昧さゆえに(もしくは全くの無法状態ゆえに)行き着くところまで行って、遂には南米や東欧のどこかの国で作られた超安価なワインを、大きな容器に入れて輸入して、“日本国内でビン詰めさえすれば”それは「国産ワイン」と名乗ってよろしい、ということになってしまっていたのです。狼少年の遠吠えと散々揶揄されながらも、私自身は西独留学からの帰国以来、これではダメだとずっと言い続けて来ました。しかし、この現状を認識していた日本人は一体どれ程居たことでしょう。勿論、ワインメーカーの人々は完全に100%知っていたことですが、、、。どちらにしても、日本以外の殆んどの国の人々はワインを日本のようには考えていませんでしたし、肝心の我が日本国民の大部分も、まさかそこまで「国産ワイン」が堕落しているとは考えてもいなかったことでしょう。
  2015年4月、国内に270程あったワインメーカー(以上のような経緯ですから、必ずしもワイナリーとは呼べないところだらけでしたorです)に監督官庁の国税庁から最初の指針が示されました。そしてその指針に日本中のワインメーカーが唖然としました。それはそうでしょう。概ね3年で他の諸国並みの法律にするなんて不可能だろうし、きっと与太話だろう、と。
  しかし今回のTPP・EPAの進捗具合を見ていますと、国内初のワイン法を3年以内に完全施行するというタイムテーブルは理に叶っていたのですね。それ程急がなければ間に合わなかったとも言えます。もっとも今回の新しい法律のことは、一番大事な国民一般への正確な周知は殆んどなされていません。ワインメーカーや大きな酒類問屋に配布された文書には、「消費者の商品選択に資する目的で新法を定める」と奥歯に物の挟まった表現ゆえ、真実は国民に伝わっていません。そんなことより、「今迄国内の殆んどのワインは、国際慣習に照らしてワインとは呼べない代物でございました」から始めれば上手く行ったのに、と思うことしきりです。正直が一番。
  昨10月30日の新ワイン法本格施行後も、もっといっぱいあるハズの「輸入ワイン使用」やら「輸入原料(濃縮果汁)使用」と表と裏のラベルに書かれたワインを店先で余り見かけません。それどころか、いまだに怪しげな表記のワインのオンパレードで、タカを括っているワインメーカーが少なからず居るのは確かです。何度も言うようですが、新法違反の摘発も貿易相手国にやって貰うことになるのでしょうか。でもカルロス・ゴーン氏を告発した国ですもの、新ワイン法の違反者も自力で挙げなければ、格好が付きませんね。日本は法治国家なのですから。
  御推察の如く、変革の原因がTPPやEPAなら、ワインの次はウィスキーであり、ジャム・ジュースであり、蜂蜜であり、海塩であり、、、と対象産品が次々と目白押しです。人々が田舎で本物の農産加工品を、それも高付加価値型の製品を作り始める大きな機縁となることでしょう。良いことです。