171.When the Sleeper wakes

  11月に入ってもぶどうの葉が落ちません。何を言うか、例年11月中旬が落葉のシーズンじゃあないか。それはそうでしょう、標準の年はね。でも私の計算法は違っています。
  今シーズンは本州の悪天候を尻目に、北海道なかでも我が余市町はとても特殊な気候でした。5,6,7月は好天続きで東京よりも高温で、というより日本一高温の日さえ何日かありました。雨も小雨が2週間に一遍程度で絶好のワインぶどう日和り。8月に雨がきちんと降る日は何日かありましたものの、我がぶどう群は8月中旬には成熟期を迎えて、早熟性のアコロンは9月9日に収穫してしまいました。最晩熟のピノ・グリやカベルネ・クービンを10月16日に収穫しましたので、標準的なワインぶどうカレンダーよりすべてのステージが3週間前倒しとなったのです。
  6月中旬に開花(満開)して9月上旬に収穫。これらはきっと私の記憶に永遠に残ることでしょう。非常に暖かかった年として?いえいえ、北海道温暖化第二相の始まりの年としてです。とは云え、そんな調子ですから秋と冬は多少早めにやって来るとタカをくくっておりました。ところがさにあらず。私の考える段階的移行論(すなわち暑い夏の後、数年後・数十年後に暖たか過ぎる冬もやって来る)とはならず、同時に同い年にどちらかというと遅い冬期化の進行となっているのです。結論として北海道全体が通年でかなり暖かくなって来ているのではないでしょうか。
  ワイン作りをしている人、すなわちワインぶどう作りをしている人は、一般的に目の前のぶどうをすべて安泰に(良い糖度・良い酸度で)収穫し了えると、頭脳と身体のどちらもが一時的に休眠しがちです。要するにホッとひと安心の状態となるのです。この寸時の休眠から覚めるのは発酵が完了し、澱(おり)を取り除いて新しい樽に移す12月、1月頃でしょうか。H.G.ウェルズはかつて違った意味で使いましたが、私のWhen the sleeper wakesはそんな時の気持ちにピッタリの表現です。