73.チョウザメの卵と浮き袋

2016/05/03

 小樽水族館にも泳いでいますが、黒海にはもっといっぱい棲息している魚。しかもその魚卵の塩漬けは美味至極。そうです、キャビアのことです。
 ところでチョウザメもキャビアも平均的な日本人の私達には殆んど無縁な存在ですが、では、その浮き袋を腹から取り出して、よく洗って大鍋で煮て、煮コゴリ成分をゼラチンプレート様に加工したものを魚膠(ぎょこう)と呼びますが、これは一体何に使うのでしょうか。
 答えは白ワイン作りに、です。一般に発酵が終わった白ワインは何時までも沈まない細かい微粒子で濁っています。この濁りを除去する方法として、人類が考え出したのが蛋白質清澄(せいちょう)法です。チョウザメのゼラチンプレートを少量のワインに溶きます。そして泡立てて、メレンゲ状にしたものを大量のワインに合わせます。ワインに溶けたゼラチンプレートはプラス電荷を帯びた蛋白質粒子としてワインに漂う内に、元々ワイン内で漂っていたもっと小さな濁りの粒子(マイナス電荷)を吸着させ、その重みで短時間にタンク(樽)の底に沈みます。上澄みを上手にすくい取ると、これが美味しい白ワインとなります。(文章ではこうですが、勿論充分な経験が必要です。初心者は熟練者の指導の下、行ってください。間違うと、ワインが全滅して、味気のないものとなります。)とにかく、人類最古のワイン作りの人々は、目の前にある黒海より獲れるチョウザメのゼラチンプレートを白ワイン作りに利用していたのです。
 先々週、ウクライナから面白い人物が私を訪ねて来ました。私の話はまるで作り話のように思われるかも知れませんが、本当に毎日毎日誰かが訪ねて来るのです。そんじょそこらの市長室や町長室よりは千客万来の身です。勿論メインテーマはワイン作りです。それはともかく、ウクライナから来た人の話。
 チョウザメは資源が枯渇しかかっていて、今や開腹産卵後、外科医よろしく腹を縫合して放流し、再び、三度び採卵するのだそうです。名付けて「帝王切開キャビア」。何と可愛そうな。フォアグラの鵞鳥もキャビアのチョウザメも本当に大変ですね。
 このウクライナより来訪のお客人からは先日礼状が届きました。痛快な内容でしたが、そのお話は次の機会に。