92.Chardonnet et Chardonnay

2016/12/30

  その昔(といっても極く最近の1880年頃)フランスにシャルドネ(Chardonnet)という名の化学者がいて、面白い物を発明しました。ニトロセルロースをアルコールエーテル液に溶かし、別の酸性溶液の中に注射器で射出して、絹状の繊維を得ました。その輝きがあたかも光線(仏語でrayon=レーヨン)のようだったので、名付けてシャルドネ・レーヨン。人造絹糸の登場です。その後次々と銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、ナイロン、テトロン、アセテート等々様々な合成繊維が生まれますが、まさにシャルドネこそ基本技術の創案者なのです。高校時代はサッカー部に居ながら化学部の部長も兼任していて、シャルドネの実験をなぞって喜んでいた私ですが、その名は深く私の胸に刻み込まれました。
  それがどうでしょう。シャルドネの暮したブザンソンからほど近いブルゴーニュが原産の、その名もピノ・シャルドネ(Pinot Chardonnay)という白いワイン用ぶどうと20代に知り合い、その後ずっと40年以上もお付き合いする身になろうとは。
  品種学上は、ブルゴーニュの代表品種ピノ・ノワールの白子(アルビノ=色素欠落種)である、ピノ・ブランのさらなる突然変異種ということになっていますが、ピノ・ブランとは栽培学上(すなわちぶどうそのもの)もワイン醸造学上(ワインの味)も異なった特性を持っています。
  私の西ドイツ留学時代である1970年代は原産地ブルゴーニュとその近辺以外では殆んど栽培されておらず、400km程東のライン河上流域のドイツ・バーデン地方に於いてはピノ・ブランは奨励品種なのに、ピノ・シャルドネは栽培禁止品種になっていたのですから驚きです。温暖化の影響もあって、現在ではドイツ最南部のバーデン地方では、良き白ワイン用品種と認められつつあります。
大戦後の70年間の後半である1980年代以降は、地球上の新しいワイン地帯に沢山植えられました。北米、南米、オーストラリア、ニュージーランドといった具合にです。結果、現在地球上で一番隆盛の(栽培本数の多い)白ワイン用品種となりました。それは同時に世界の栽培家(醸造家)にとって最重要な白ワイン品種になったことを意味します。モンラッシェ、ムルソーが鼻高々でいられるのもあと僅かの気配が感じられる程、新世界のシャルドネに優秀なものが多く出て来ました。栽培醸造家にとって人気の理由は、ワインを辛口に仕上げた時その真価を発揮しやすいぶどうであり(個性的な香りとコクのある引き締まったワイン)、世界中が辛口嗜好で食事向きのワインを求めているという最近の流れに叶っている点があげられます。栽培が割合楽なことも重要なファクターだと思います。
  通常はオークの内壁を中程度にローストした新樽で熟成させた後、ビン詰めし、多少黄金色になった頃に飲む中期熟成タイプのワインです。シャンペーン作りのベースワインにも使われます。私共OcciGabi Wineryでは2013年に合計4000本の苗木を植え、2015年からワイン作りをしています。現在はワインにして年産6000本ペース、近い将来12000本程が毎年リリースされる予定です。正直申しまして、若い木ゆえ、まだコクのある深い香りのシャルドネを作るには至っておりませんが、2年間のビン内熟成期間を経て、2017年頃には一丁前のシャルドネに近付くかなとちょっぴり期待しています。